第四章 運命の11月18日、雷を手繰り寄せる

essay

十月の終わりにすべての観測準備を終え、私は一度山を降りた。そこからは下界の事務所で、最新の気象データを凝視する緊迫の日々が始まった。

そして運命の十一月八日。気象状況を確認すると、日本海側から強烈な雷雲が山頂へ向かって急速に発達しつつあった。いよいよだ――そう直感した私はすぐさま上山を決定し、あの険しい山道を登った。

昼過ぎに山頂の観測小屋へ到着すると、そこはすでに独特の熱気に包まれていた。その日の現場は、大学チームのN先生が鋭い目で指揮を執っていた。

時間が経つにつれ、観測小屋全体の空気が目に見えて重くなっていく。十八時を回った頃から、小屋の中がにわかに慌ただしくなり始めた。無線機から飛び交う硬い声。先生も学生たちも、それぞれの観測装置の前で一言も発さなくなる。部屋の温度は変わらないはずなのに、大気の電位の昂まりに呼応するかのように、肌を刺す強烈な緊張感が満ちていた。

そして二十三時過ぎ、ついにその時が訪れた。

地上の電界強度――すなわち空間の電気的な緊張度を示す数値が、限界値に向けて跳ね上がったのだ。上空のすぐ近くに、莫大な電荷を孕んだ雷雲が完全に垂れ込めている証拠であった。N先生が電界強度のメーターを凝視しながら、張り詰めた声を上げる。

「……カウントダウン開始」

五、四、三、二、一――「発射」

ドン、とロケットが夜空へ突き抜ける金属音が響いた直後のことであった。

すべてを真っ白に染め上げる閃光。それとほぼ同時に、足元から突き上げる激しい地鳴りが観測小屋を揺さぶった。わずか三十メートル先にある高さ六十メートルの鉄塔に、私たちが手繰り寄せた稲妻が直撃したのだ。

あまりの衝撃に身を硬くしながら、私は祈るような思いで目の前の記録装置へ飛びついた。

暗いモニターの画面を凝視する。そこには、さっきまで静かだった水平な直線が嘘のように、激しくのたうち、やがて収束していく「美しい電流波形」が、クッキリと鮮やかに描き出されていた。

「波形、出ています」

データを確認する。電流値は約三十キロアンペアを少し超える値。冬季雷としてはごく普通の、いわば「標準サイズ」の雷撃であった。しかし、それはまぎれもなく、私たちが狙い通りに天から引きずり下ろし、鉄塔へと導いた、完全なる誘雷成功の証であった。

言葉には出さず、しかし胸の奥の奥で、私はこれまでの胃の痛むような苦労がすべて吹き飛ぶほどの、熱い咆哮をあげていた。指先が微かに震えるほどの興奮が、全身の血を駆け巡っていく。

私たちの興奮を祝うかのように、その夜の奥獅子吼山は神がかったような誘雷ラッシュに沸いた。終わってみれば、本命である鉄塔への雷撃が三件、大学側の設備への雷撃が二件。合計五件もの誘雷をすべて成功させて、激動の一日を締めくくったのである。

その夜は、興奮冷めやらぬまま山小屋のあの狭い三段ベッドに潜り込んだ。上体を起こすこともできないほど狭い格納庫のようなベッドだったが、不思議とこの夜ばかりは極上の寝床に思えた。

翌朝、小屋の窓から外を見ると、昨夜の嵐が嘘のような静けさが広がっていた。私たちは観測機材と、得難い「生きた波形データ」をしっかりと抱え、昨日とは打って変わって、最高に晴れやかで気持ちの良い足取りで山を降りた。会社へと帰る道すがら、私の心はこれまでにない達成感で満たされていた。

しかし――この最高の成功の余韻に浸っていたのも束の間。私たちはこのあと、技術者としての最大の試練に見舞われることになる。観測装置の一部が深刻な故障を起こし、痛恨の「データ欠損」を引き起こしてしまったのだ。

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